国政報告

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病気に対する差別が助長される懸念も

第185回国会 2013年11月12日 参議院法務委員会(自動車運転死傷行為処罰法① 20分)

11月12日(火)、法務委員会で自動車運転死傷行為処罰法の1回目の質問を行いました。

①「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気」の具体的内容と病気に対する差別が助長される懸念②ひき逃げ重罰化の抑止効果③無免許運転の加重法定刑の妥当性-を中心に質問しました。

糸数慶子君

無所属の糸数慶子です。どうぞよろしくお願いいたします。

先ほどから議題に上がっております自動車運転処罰法について、まず自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気の具体的内容と、病気に対する差別が助長される懸念についてお伺いをしたいと思います。

法制審議会の答申によりますと、政令で定める自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気は、道路交通法において運転免許の欠格事由の対象とされている病気の例を参考とし、その症状に着目して、自動車の運転に支障を及ぼすおそれがあるものに限定するとされており、谷垣法務大臣も衆議院法務委員会においてその旨の答弁をされています。

一方で、日本精神神経学会、日本てんかん学会、日本うつ病学会、日本認知症学会、日本不整脈学会、日本睡眠学会及び日本神経学会の七学会は、衆参法務委員会において提出いたしました要望書、これ、平成二十五年九月三十日の要望書の中で、第三条第二項の対象となる一定の病気による事故率が他の要因と比較して高いという医学的根拠はないというふうに主張しています。

そこで、全交通事故に占める発作、急病による事故の件数について、まず警察庁にお伺いをしたいと思います。

政府参考人(倉田潤君・警察庁交通局長)

お答えいたします。

平成二十二年から二十四年までの交通事故発生件数につきましては約六十七万件から七十三万件でございますが、このうち運転者の発作、急病に起因する交通事故の発生件数につきましては、平成二十四年は二百六十二件、平成二十三年は二百五十八件、平成二十二年は二百四十三件でございまして、おおむね二百五十件程度で推移をしているところでございます。

また、このうち死亡事故件数につきましては、平成二十四年十三件、平成二十三年二十一件、平成二十二年十件でございまして、おおむね十件から二十件程度で推移をしているところでございます。

糸数慶子君

発作、急病による事故が交通事故全体に占めるその割合は決して高いものではないにもかかわらず、一定の病気の影響による場合を危険運転致死傷罪の対象とする理由は何でしょうか。

政府参考人(稲田伸夫君・法務省刑事局長)

病気の症状が原因で自動車運転により人を死傷させた場合、現行法でも自動車運転過失致死傷罪などによりまして処罰され得るところでございます。

今回の第三条第二項の危険運転致死傷罪は、一定の病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態であることを認識したにもかかわらず、それでもあえて自動車を運転した場合、具体的に申しますと、例えば発作を抑える薬を服用しておらず、発作の予兆が生じているにもかかわらず、それでもあえて自動車を運転した行為のような点に危険性、悪質性があることから、そのような運転行為によって人を死傷させた場合に、過失犯である自動車運転過失致死傷罪よりも、当罰性、すなわち責任非難が強いものとしてより重く処罰しようとするものでございます。

したがいまして、発作、急病による事故の交通事故全体に占める割合そのものによって本罪の必要性、合理性が左右されるものではないのだろうというふうに考えております。

糸数慶子君

過労運転を危険運転致死傷罪の対象とせず一定の病気の場合には該当し得るとすることは、病気による差別であり、病名に対する偏見を形成し助長する危険性があるとの指摘もあります。病気に対する偏見、差別が助長されないよう、法律の趣旨を分かりやすく丁寧に国民に説明する必要があるのではないでしょうか。谷垣大臣にお伺いいたします。

国務大臣(谷垣禎一君)

それはもう委員のおっしゃるとおりだと思います。

それで、三条二項の場合に、こういう罰則の類型、普通の過失傷害よりも過失致死、過失傷害を重く定めた理由は、そういうおそれがあることを知っていて、しかもやったというところに重い原因があると先ほど刑事局長が御説明申し上げました。したがって、決して、ある病気であるからとか、そういう理由で処罰をするわけではないわけですね。ですから、その趣旨は私ども丁寧に発信していかなければならないと思っております。

糸数慶子君

先ほど述べましたこの七学会の要望書の中で、病気、並びにその程度と、運転技能及び交通事故との関係を科学的に明らかにすべきであるとしています。また、第百八十三回国会においては、一定の病気等に係る運転者対策等を内容とする道路交通法の一部を改正する法律案が成立いたしました。私も当時、内閣委員として質疑に参加をいたしております。その際、内閣委員会は、附帯決議、平成二十五年五月十六日のこの附帯決議の中で、国内外における一定の病気に関する科学的な調査、研究を推進するとともに、最新の医学的知見を反映させるため、一定の病気等に係る免許の可否等の運用基準については、必要に応じて見直しを行うということで、政府に対して附帯決議も付けております。

そこで、第三条第二項のこの病気についても、法施行後も絶えずフォローアップを行い、医学界の専門的知見や、意見や、あるいは患者団体の意見を聞く機会を確保し、この免許の可否基準の見直しに応じて必要な措置を速やかに講じるべきであると考えますが、政府の見解をお伺いいたします。

政府参考人(稲田伸夫君)

まず、本法案が成立いたしました暁にはこの政令を定めることになりますが、この第三条第二項の自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気を政令で規定するに当たりましては、運転免許の欠格事由とされている病気の例を参考とし、医学に関する専門家の方などから対象とする病気やその症状などについて専門的な御意見を聞いた上で、この三条二項の危険運転致死傷罪の対象とすべきものを適切に規定したいと考えております。

そして、この三条二項が今回の法律案において初めて導入される犯罪類型でございますことから、引き続きまして、運転免許の欠格事由の対象とされる病気の例を参考とすべく、その動向に留意するとともに、本罪の適用状況などについて注視してまいりたいと考えております。その上で、将来、道路交通法令において新たな一定の症状を呈する病気が類型化され運転免許の欠格事由に追加され、あるいは現行の欠格事由の一部が欠格事由とされなくなるなどの改正がなされる場合には、それを危険運転致死傷罪の対象とするかを含め検討したいと考えております。

糸数慶子君

次に、ひき逃げを重罰化することによる抑止効果についてでありますが、本法律案第四条で新設される過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の法定刑の上限は十二年の懲役ですが、この罪と道路交通法の救護義務違反は併合罪の関係に立つのでしょうか。また、その際の処断刑についてお伺いいたします。

政府参考人(稲田伸夫君)

まず最初に結論から申し上げますと、新設される第四条の罪と道交法の救護義務違反の罪との罪数関係は併合罪になると考えております。

その理由について御説明いたしますと、まず、第四条のアルコール等影響発覚免脱罪の罪の態様はその場を離れるものでございます。それに対しまして、道路交通法違反の救護義務違反は救護をしないという不作為犯ということでございまして、作為犯と不作為犯という点でまず違うものでございます。また、アルコール等影響発覚免脱罪は、救護義務違反の罪と異なりまして、単にその場から立ち去っただけで直ちに成立する罪ではないわけであります。先ほど、その場から離れるものでありますと言いましたが、その場から離れるものであったとしてもということでございまして、いずれにしても、行為の態様が、アルコール等影響発覚免脱罪と救護義務違反の罪とではその態様が異なってきております。

一般に罪数の考え方について最高裁が取っております、法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価できるか否かという観点から考えますと、併合罪の関係になるということになると思います。

さらに、アルコール又は薬物を摂取する行為でありますと、これは明らかに救護義務違反とは別個の構成要件的行為でございますので、併合罪になると考えております。そのようになりますと、アルコール等影響発覚免脱罪と救護義務違反の罪は、処断刑といたしましては懲役十八年以下ということになります。

糸数慶子君

十八年の懲役という処断刑ですが、これは第二条の危険運転致死罪の二十年に比べると軽いとはいえ、相当に長期間であります。第四条を新設することによって期待される逃げ得の是正効果についてお伺いいたします。

政府参考人(稲田伸夫君)

なかなか、ひき逃げ等の事案の発生というのは様々な要因によって左右されるところがございますので、ストレートに新たな罪の創設によってどの程度罪がというか、犯罪の発生が減少するかお答えするのは難しいところはございますが、いずれにいたしましても、危険運転致死罪の二十年以下と法定刑で僅か二年とはいえ差があるものの、やはり十八年以下というかなり重い罪で処断されることになりますことからいたしますと、このような事故を起こした後にその場を立ち去るなどしてアルコール等の影響発覚を免れようとするような者に対しましては、その自覚を促して抑止する効果は十分期待できるのではないかと、その意味において逃げ得と言われる状況に対する相当程度の抑止効果があるのではないかというふうに考えております。

糸数慶子君

ひき逃げに対しては、重罰化するのではなく、現場から事故を通報したり被害者を救護した者については必要的に刑を減軽するか刑の免除をすることによって、加害者がそのような行為をすることに恩典を与える方が被害者の救護を促進することになるとの意見もあります。ドイツ刑法第百四十二条四項にそのような規定が設けられており、そのような立法例がありますが、政府の御見解をお伺いいたします。

政府参考人(稲田伸夫君)

外国法令につきましては、なかなか私ども、つまびらかにできないところがございますけれども、御指摘のドイツ刑法百四十二条第四項は物損のみが生じた場合に限って適用されるものではないかというふうに考えておりまして、人を死傷させた場合にまでは対象になっていないように思われます。

ただ、いずれにいたしましても、御指摘の制度が死傷事犯について刑の減免をするということでございますと、我が国におきましては、現に交通死傷事犯を起こした多くの方は自主的に通報、救護しているという実態がございます。それに鑑みて、他方で救護等をせずに現場から立ち去っている一部の者に対処するために、結果の軽重にかかわらず、広く恩典として刑の減免制度を設けるのは相当ではないのではないかというふうに考えているところでございます。

糸数慶子君

次に、無免許運転であった場合に加重した法定刑を定めることの妥当性についてお伺いいたします。

第六条では、運転時に無免許であれば、事故と因果関係がなくても加重が行われるということよろしいでしょうか。

政府参考人(稲田伸夫君)

委員御指摘のとおりでございまして、第六条の無免許運転による加重の罪は、第二条から第五条までの罪を犯した者がその罪を犯したときに無免許であれば、無免許であることと人の死傷との間に因果関係を問うことなく成立するものでございます。

糸数慶子君

無免許運転行為が死傷の結果に影響していない場合において、その行為が一律に違法性や責任を高めるとは考えられないとの意見もありますが、無免許運転によるその加重を行うとした理論的根拠についてお伺いいたします。

国務大臣(谷垣禎一君)

この六条に関してはいろんな意見がございます。無免許運転そのものを危険運転にせよという御意見もありますし、今の糸数委員の御意見は、どちらかというと、その因果関係のないといいますか、そういうようなものを重く罰するのはどうかという問題意識に発して御質問があったというふうに認識しております。

そこで、私どもの考え方を申しますと、まず、自動車運転する場合に免許を取って運転してくださいよというのはドライバーのやはり基本的な義務といいますか、そういうものとして制度がつくられているわけですね。したがいまして、自動車運転のための最も基本的な義務に違反した、そのような意味で規範意識を著しく欠いたということがまずあると思います。

加えまして、その運転免許を要求することによって、安全や何かに必要な技能、適性、知識というものをこの試験によって求めているわけでありますが、これを欠いているという意味で、無免許運転というのはやはり抽象的、潜在的には極めて危険な行為であると言わざるを得ないと。それで、現実に運転しているときに事故を起こしてしまったというのは、この潜在的、抽象的なものが、言わば反規範性が顕在化したというふうにとらえることができるのではないかと思っております。

そして、無免許運転のこの反規範性というのは、危険性が顕在化あるいは現実化した場合でも人を死傷させた事犯そのものの責任や違法性の重さとして評価すべきでありまして、その法定刑も無免許運転と全く、何というんでしょうか、無関係といいますか、併合罪の場合には特別な関係がなくても併合罪になるわけでありますけれども、そういう併合罪加重よりも、やはりこのような潜在的なあるいは抽象的な危険が顕在化したと考えられる場合には重く持っていくべきではないかというようなことから加重をされた罪を設けることにしたというのが私どもの考え方でございます。

糸数慶子君

たまたま免許を失効させた者など、無免許運転が必ずしも結果に影響したとは言えないような場合、免許を取得したことが全くない者と同じように違法性や責任が大きいとは考えにくく、両者を一律に重く処罰する根拠は十分ではないと思われますが、その点をどのように整理しているのでしょうか。

政府参考人(稲田伸夫君)

先ほど大臣から御答弁がございましたように、本条で無免許運転による加重をすることにした趣旨は、無免許運転で人を死傷させた事案につきましては無免許運転の反規範性でありますとか危険性が言わば顕在化、現実化したものと評価して、その意味で重い処罰を可能にするという点にございます。

この点、免許を失効した後にそれを認識しながら自動車を運転する行為は、自動車運転のための最も基本的な義務に違反した著しく規範意識を欠いた行為であることには変わりはないと思います。また、更新時の適性検査でありますとか最新の交通法規の知識取得の機会がなかったという点で危険性も認められることから、人を死傷させたときは、その反規範性や危険性が言わば顕在化、現実化したと評価できるという意味においては運転免許を取得したことがない者と同様であると考えられます。したがいまして、本法律案におきましては、道路交通法の無免許運転罪と同様に、無免許の類型ごとに区別するようなことはしておりません。

なお、もとより運転免許を失効したことについて認識がない場合、すなわち免許をまだ持っていると思っていた場合には、無免許運転による加重も当然故意がないことからなされないことになります。

糸数慶子君

次に、現行の警察の免許管理システムでは、運転免許が失効した者と一度も運転免許を受けていない者を区別して把握することができないことが明らかになっていますが、無免許運転の態様を把握するため、システムの変更も検討すべきではないでしょうか。また、法務省では本規定の適用状況をどのように検証していくのか、お伺いしたいと思います。

政府参考人(倉田潤君)

お答えいたします。

現行の運転者管理システムでは、一度運転免許を受けた者であっても例えば違反歴等がなく運転免許を失効させた場合には、その者のデータを失効から三年三月で削除することとしております。現行の運転者管理システムを変更し運転免許が失効した者のデータを永久に保存することとすれば、一度運転免許を受けた者のデータにつきましては何らかの形でシステムに残ることとなりますので、御指摘のような区別を行うことが可能になります。

もっとも、システムの変更の時点で既にシステムから削除されている者につきましては、データの復元ができませんので、御指摘のような区別をシステム変更以前に遡って完全に行うことはできないところでございます。

今後、御指摘のような者を危険運転致死傷罪等の対象とする方向で検討を進めることとなる場合には、警察庁としても必要な検討を行ってまいりたいと考えております。

政府参考人(稲田伸夫君)

先ほども御答弁申し上げたとおり、運転免許を取得したことがない者と運転免許を取得したことはあるが失効した者との間に、我々といたしましてはその差を設ける必要性は現時点ではないものとは考えておりますが、今後の六条の無免許運転による加重を含め本法の施行状況につきましては、適用状況や量刑の実態について的確に把握していかなければならないと考えており、今後その中で検討をしていきたいというふうに考えております。

糸数慶子君

通告をいたしました質問があと幾つか残っておりますけれども、時間の関係で、残りはまた参考人質疑のときにさせていただきます。

以上です。ありがとうございました。